プロドライバーでありながら、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)で、法定刑上限の懲役判決――。群馬県伊勢崎市でトラックを飲酒運転し、家族3人を死亡させた罪などに問われている男の裁判員裁判で、前橋地裁が13日に言い渡した判決は懲役20年と極めて重く、トラック運送業界に衝撃が走っている。「生活と経済のライフライン」を掲げるトラック業界にとって、飲酒運転は最も忌避すべき犯罪といえる。飲酒運転撲滅に向けた取り組みの重要性がさらに増している。(特別取材班)
被告は2024年5月、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で走行し、中央分離帯を越えて対向車線の乗用車と衝突。乗用車に乗っていた3人を死亡させ、別の車を運転していた女性にも軽傷を負わせたとされる。 検察側は、被告が飲酒していたとして危険運転致死傷罪が成立すると主張。一方、弁護側は、事故は過失で、飲酒の事実はなかったと過失運転致死傷罪を主張した。 危険運転致死傷罪は、飲酒運転やあおり運転など、悪質な行為がある場合に成立する。人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役で、最大で懲役20年になる可能性もある。一方、過失運転致死傷罪は7年以下の拘禁刑、場合によっては罰金と、刑罰の重さに大きな隔たりがある。 過去の判決を踏まえると、危険運転致死傷罪が認められるのはハードルが高い。しかも法定刑上限の懲役20年の判決が出るのは珍しい。現行の危険運転致死傷罪では「要件があいまい」との指摘があり、法務省は、アルコール濃度や速度超過の数値基準について検討し、アルコール濃度は呼気1㍑につき「0.5㍉グラム以上」に設定。18日開会の特別国会に飲酒や大幅な速度オーバーなど悪質運転による交通事故を厳罰化するための関連法案を提出する。 判決を受け、群馬県トラック協会の武井宏会長は「事故事例の共有やIT点呼の導入促進、日頃の点呼の徹底など情報共有を行い、講習会や安全大会を通じて安全に対する意識を啓発してきた。会員各社でのドライバーへの教育とコミュニケーションの徹底が必要となる。経営者の意識を高めるとともに、安全に対するムードを会員に醸成していく。重大事故を起こさせないための教育を徹底しないといけないと改めて思う」とコメント。 全日本トラック協会(寺岡洋一会長)では、25年に事業用トラックによる年間の飲酒運転事故が増加したことを踏まえ署名活動を展開するなど、根絶に取り組む。4日の交通対策委員会(二又茂明委員長)で、取り組みの強化に向けた決議を全会一致で採択した。
今回の事件では、被告に飲酒の常習性があり、当日も血液からアルコールが検出されたにもかかわらず飲酒を否定したことも判決に影響していると考えられるが、裁判官は被告がプロのドライバーであった点も考慮したと見られる。 元トラックドライバーでフリーライターの橋本愛喜氏は、判決言い渡し日を含め、この事件の裁判を3度傍聴。裁判官が「プロドライバーであれば当然理解しているはずの安全意識が欠如していた」と語ったことについて、「プロドライバーの責任は乗用車ユーザーよりはるかに重い。運送事業者、ドライバーはいま一度、安全教育の体制を見直してほしい」と強調する。 また、被告は業務前点呼後に焼酎2本を飲んだと見られており、基準値以上のアルコールが検出された場合にエンジンがかからない、アルコール・インターロックの重要性を説く。 「トラック全車に設置すべきとまでは言わないが、アルコール検知に何度か引っ掛かったことのある人が乗る車には設置しておくなど、ドライバーの意識任せにならない確実な予防的措置を講じるべきだ。アルコール・インターロックを導入する際は多額の補助金を出すなどして国も更に奨励したほうがいい」 被告は26日に控訴しており、刑罰はまだ確定したわけではないが、緑ナンバーのトラックドライバーが、運転上の過失事故として最上級となる懲役判決が下されたことについて、トラック運送業界の関係者は重く受け止めなければならない。点呼を徹底しているかなど自社の安全体制が不十分でないか、改めて見直すことが、この事件のような悲惨な事故を起こさないための大事な一歩になる。全国のトラック協会などによる啓発活動の一層の促進にも期待したい。飲酒運転は、一件も発生させてはならない。