ドライバーの拘束時間が長くなりやすい状況は、今も多くの現場で課題となっています。荷待ちや積み込み、渋滞などの要因が重なることで、拘束が長時間に及ぶケースも少なくありません。こうした状況が続くと、ドライバーの疲労やモチベーションの低下につながり、事故や離職のリスクも高まります。一方で、「拘束時間はどこまでを含めるのか」「どのように短縮できるのか」といった点は、現場でも判断が難しい部分です。
この記事では、ドライバーの拘束時間について、上限や現場の実態・短縮に向けた具体的な取り組みを解説します。拘束時間の線引きを整理し、日々の運行管理をより適正に進めるための参考にしてください。
目次
運送業で定められるドライバーの拘束時間の基準
まず、ドライバーの「拘束時間」が何を指すのか明確にしておきましょう。拘束時間とは、ドライバーが運送会社の指揮命令下に置かれているすべての時間を意味します。
拘束時間には、荷物の積み込みや荷卸し、点呼、車両点検といった作業の時間も含まれます。また、休憩時間や、荷主の都合による待機時間(荷待ち)も拘束時間に含まれます。
一方で、仕事から完全に解放されて自由に過ごせる時間は「休息期間」として扱われ、拘束時間には該当しません。終業から次の始業までの時間が、休息期間にあたります。
国が定めるドライバーの拘束時間
ドライバーの拘束時間は、厚生労働省の「改善基準告示」で上限が定められています。これは、過度な長時間労働を防ぎ、ドライバーの健康と安全を守るために設けられたルールです。
運行管理者は、この基準をもとに運行計画を立て、拘束時間が上限を超えないよう管理する必要があります。ここでは、厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」(以下、長時間労働改善ポータル)の内容をもとに、1日・1ヶ月・1年あたりの拘束時間の上限について解説します。
1日の拘束時間
1日あたりの拘束時間は、原則として13時間以内と定められています。ただし、やむを得ない事情がある場合には最大15時間までの延長が認められます。
また、1週間のすべての運行が長距離貨物運送(450km以上)で、かつ1回の運行における休息期間が自宅以外の場所となる場合に限り、週2回まで16時間までの延長が可能です。
いずれの場合も、拘束時間が14時間を超える日数(週2回までが目安)を可能な限り少なくするよう努力することが大切です。
1ヶ月の拘束時間
1ヶ月あたりの拘束時間は、原則として284時間以内と定められています。ただし、労使協定(労働者と使用者の間で締結する協定)を結ぶことで、年間6ヶ月を限度に、310時間までの延長が可能です(※年間の拘束時間は3,400時間を超えない範囲内)。
延長を適用する場合でも、284時間を超える月が3連続を超えてはなりません。また努力義務として、1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計が100時間を超えないよう、十分な配慮が求められます。
1年の拘束時間
1年あたりの拘束時間は、原則として3,300時間以内と定められています。ただし、労使協定を結ぶことで、年6ヶ月を限度に3,400時間までの延長が可能です。
年間の上限を守っていても、日単位や月単位の基準を超えて運行することはできません。また、拘束時間の増加が続くと長期的な疲労蓄積につながるため、年間を通じた計画的な配車と勤務管理が欠かせません。
ドライバーの拘束時間の実態
国が定める上限基準に対して、現場のドライバーの拘束時間はどうなっているのでしょうか。ここでは、ドライバーの拘束時間の実態について見ていきましょう。
国土交通省の資料によると、2024年度の1運行におけるトラックドライバーの平均拘束時間は11時間46分でした。これは、2020年度の調査と比べると約40分減少しています。
また、厚生労働省の資料によると、繁忙期における1日の拘束時間が「13時間超~16時間以下」となるドライバーは全体の27.3%にのぼります。
※「13時間超~15時間以下」は21.0%、「15時間超~16時間以下」6.3%
このように、一定数のドライバーが依然として長時間の拘束下で勤務している実態が明らかになっています。
ドライバーの長い拘束時間がもたらすリスク
ドライバーの長時間拘束が続くと、ドライバー自身だけでなく、運送会社や荷主にも大きな影響を及ぼしかねません。ここでは、長時間拘束がもたらす4つの主なリスクについて解説します。
健康リスクの上昇
拘束時間が長くなると、ドライバーの心身に大きな負担がかかります。運転や荷積み・荷卸しの時間が続けば、疲労や睡眠不足が慢性化し、集中力の低下や判断ミスを招きやすくなります。
実際のところ、運送業は労災認定の件数が多い業種の1つ であり、過労死が報告されるケースも少なくありません。ドライバーの健康を守るためには、定期的な休息の確保や労働時間の適正化が不可欠です。
なお、ドライバーの健康管理の重要性については、以下の記事で詳しく解説しているため、併せて参考にしてください。
「ドライバーの健康管理の重要性とは?法的義務や推進の取り組みについて解説」
配送上のトラブル増加
拘束時間が長くなると、疲労によって集中力や判断力が低下し、ヒューマンエラーが起きやすくなります。結果として、荷物の破損・誤配送・納品遅延などのトラブルにつながるおそれがあります。
こうしたミスが続けば、顧客からの信頼を失い、取引機会の減少や評価の低下にも影響しかねません。ドライバーが安定して業務をこなせるよう、無理のない運行スケジュールと労働環境を整えることが重要です。
離職率の上昇
拘束時間が長い状態が続くと、プライベートの時間が確保できず、仕事への意欲や満足度が低下します。心身の疲れが限界を迎え、離職に至るケースも少なくありません。
ドライバーの離職が相次げば、人員の再配置や教育に追われ、現場全体の負担がさらに増します。新たな人材確保も難しくなり、結果的に慢性的な人手不足を招く悪循環に陥るおそれがあります。
このように、ドライバーの拘束時間は運送会社にとっても重大な問題です。働きやすい環境を整えることが、運送会社の安定的な運営には欠かせません。
企業への行政指導・処分リスク
ドライバーの拘束時間を定める「改善基準告示」は法律ではありませんが、実務上は遵守が求められる重要な基準です。これを超える状態が常態化すれば、行政指導や是正勧告の対象となるおそれがあります。
特に、労働基準監督署からの是正対応を求められると、現場の負担や社会的信用の低下につながる場合もあります。悪質なケースでは、事業停止や許可取り消しといった厳しい措置が科される可能性も否定できません。
そのため、拘束時間の管理はドライバーの安全とともに、企業の信頼や事業を守るうえでも欠かせないといえます。
ドライバーの拘束時間を短縮するための取り組み
ドライバーの拘束時間を短縮するためには、運送会社による主体的な取り組みが必要です。ここでは、代表的な2つの取り組みをご紹介します。
無理のないシフト管理と人員分散の工夫
拘束時間を分散するためには、特定のドライバーに業務が集中しない体制づくりが必要です。そのためには、無理のないシフト管理と人員分散の工夫が求められます。
たとえば、長距離輸送を複数のドライバーで分担する「中継輸送」を導入すれば、拘束時間を分散しつつ日帰り勤務を実現しやすくなります。また、有給休暇を計画的に取得できる「計画年休」を導入すれば、休暇の取得を促進することが可能です。
シフトの組み方や人員配置の見直しを通して、ドライバーが安心して働ける環境を整備しましょう。なお、ドライバー不足への対策について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
「運送業におけるドライバー不足はなぜ?実態や背景、対策についてご紹介」
IT活用による運行計画の見直し
拘束時間を短縮するためには、ITを活用した運行計画の見直しが欠かせません。近年は多様なITツールが登場しており、自社の業務内容や規模に合ったものを選び活用することが大切です。
たとえば「運行管理システム」を導入すると、運行状況を可視化・分析でき、荷待ち時間や無駄な待機時間を把握できます。クラウド型であれば、拠点間での情報共有もスムーズになり、ドライバーの負担軽減にもつながります。
また、「デジタコ」(デジタル式運行記録計)を活用して運転時間や速度、休憩状況などのデータを収集・分析すれば、より精度の高い運行計画を立てられます。さらに、勤怠や拘束時間の管理を自動化できる「トラック勤怠システム」を併用すれば、現場の労務管理を含めた全体最適化にもつながります。
こうしたITの導入を通して業務の効率化を進めることで、ドライバーの拘束時間だけでなく、燃料費や人件費の削減にもつながるでしょう。
拘束時間の適正化には「トラック勤怠システム」がおすすめ
ドライバーの拘束時間の適正化を図るためには、勤怠状況を管理・把握できる仕組みが欠かせません。とはいえ、一般的な勤怠管理システムでは運送業特有の法規制や勤務形態に対応しておらず、実際の現場運用に合わないケースも多く見られます。
そこで有効となるのが、運送業向けに最適化された「トラック勤怠システム」です。運送業に特化した勤怠管理・支給シミュレーションシステムで、改善基準告示にも対応しています。
主な特長は以下のとおりです。
・改善基準告示に基づき、時間超過のおそれがある場合はメールで通知
・歩合計算の自動化と支給シミュレーション機能
・Web打刻による始業・終業・休憩の簡単入力(スマートフォン対応)
紙やExcelによる手作業では、計算ミスや属人化が起こりやすく、正確な管理が難しくなります。その点、トラック勤怠システムを導入すれば、デジタコなどの運行データをもとに勤怠を一元管理し、改善基準告示に沿った適正な労務運用を実現できます。
トラック勤怠システムは月額3,000円(20名まで)から利用可能です。属人的な管理から脱却し、ドライバーの健康と企業の信頼を守る第一歩として、ぜひ導入をご検討ください。
まとめ
ドライバーの長時間拘束には、健康リスクの上昇や離職率の増加など、さまざまなリスクがあります。こうした問題を解消するためには、無理のないシフト管理や人員分散の工夫に加え、ITを活用した運行計画の見直しが欠かせません。
なかでも、勤怠管理のデジタル化は拘束時間の適正化に直結します。改善基準告示に対応した「トラック勤怠システム」を導入すれば、勤怠状況を正確に可視化し、歩合計算や支給額比較を通じて、公平で法令に沿った管理を行えます。
ドライバーが安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼と持続的な成長にもつながります。まずは3か月の無料トライアルを通じて、自社の勤怠管理を見直す機会としてぜひ検討してみてください。