近年、点呼の実施方法は法改正やシステムの普及により、選択肢が増えています。中でも、「IT点呼」と「遠隔点呼」は名称が似ていることから、何が違うのかと疑問に思う運行管理者の方も多いのではないでしょうか。
これらの違いをあいまいにしたまま導入を進めると、要件を満たさず認可が下りない、設備が無駄になるなど、導入計画そのものが立て直しになる恐れがあります。
この記事では、IT点呼と遠隔点呼の違いについて、法的なルールから必要な機器、導入の向き・不向きまで解説します。現状の点呼業務の負担を減らし、効率的な体制を構築するためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
目次
IT点呼と遠隔点呼の基本的な違い
IT点呼と遠隔点呼は、いずれも対面点呼の代替手段として国土交通省が認めている制度です。離れた場所にいるドライバーと点呼を行う点は同じですが、制度が設けられた背景や立ち位置が違います。
まずは、IT点呼と遠隔点呼がどのような制度なのか、それぞれの概要と背景を整理しましょう。なお、そもそも点呼とは何かについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
「運行管理における点呼とは?実施のタイミング・確認事項・ルールを徹底解説」
IT点呼とは
「IT点呼」とは、IT機器により遠隔地の運転者とリアルタイムに連携しながら点呼を行う方式です。本来、点呼は対面で行うのが原則ですが、この負担を軽減するため2007年に導入されました。
IT点呼を導入するには、運行管理体制が一定の水準に達していることが前提になります。 遵法状況や記録管理の運用などが審査され、体制が安定している事業所だけが申請できます。そのため、遠隔点呼と比べると導入条件は高めです。
導入要件は高いものの、運用面では対面点呼より柔軟に使える場面があります。深夜帯や早朝など、管理者の配置が難しい時間帯にも対応しやすいのが特徴です。
遠隔点呼とは
「遠隔点呼」とは、遠隔地にいる運行管理者とドライバーが、カメラやモニターを通して連携しながら点呼を行う方式です。IT点呼の導入要件が厳しかった背景を踏まえ、その適用範囲を拡大するために2022年4月から新設されました。
遠隔点呼は、優良事業所の認定が必須ではありませんが(※届出は必要)、IT点呼よりも導入のハードルは低めです。一方で、対面点呼と同等の確認精度を確保することが前提となるため、ドライバーの表情や動作を正確に把握できる映像・音声環境が必須です。
機器そのものというより、解像度・通信安定性・バックアップ体制など、基準を満たすための設備要件が明確に定められています。
IT点呼と遠隔点呼の違いを4項目で比較
IT点呼と遠隔点呼の違いについて、4項目に分けて具体的に見ていきましょう。
| 項目 | IT点呼 | 遠隔点呼 |
|---|
| Gマークの必要性 | 必要(例外あり) | 不要 |
| 点呼の実施方法(求められる確認精度) | 映像・音声で点呼を行う。確認項目は対面点呼と同様だが、映像・音声の性能に関する数値要件は定められていない。 | 映像・音声で点呼を行う。確認精度(映像の見え方や音声環境など)に厳格な要件が定められている。 |
| 必要な機器 | カメラ・アルコール検知器・通信設備・記録装置など | カメラ・モニター・生体認証や記録機能など「遠隔点呼実施要領の要件を満たす製品」 |
| 実施可能な時間枠 | 一定の時間制限あり(例外あり) | 時間制限なし |
ここからは、各項目について順番に解説していきます。
項目①Gマークの必要性
Gマーク(安全性優良事業所)は、国土交通省が安全対策に優れた事業所を評価する制度です。IT点呼を申請する際にも、Gマークの有無は審査に大きく影響します。
IT点呼を実施するためには、基本的にGマークの認定が必要です。ただし、「開設後3年が経過し、かつ過去3年間、自責の重大事故や行政処分・警告がない事業所」という実績があれば、例外的にGマークなしでも導入が認められます。
一方、遠隔点呼ではGマークの有無は問われません。IT点呼のように事業所の追加要件はありませんが、対面と同等の確認精度が求められるため、設備面の基準は厳格です。
項目②点呼の実施方法
点呼を実施する際の環境や、安全を確認する方法にも違いがあります。
IT点呼では、カメラやアルコール検知器などを通してドライバーの様子を確認します。使用する機器に一定の要件はありますが、通信環境の品質(リアルタイム性や映像の滑らかさなど)について、法令上の厳格な規定は設けられていません。
一方、遠隔点呼ではカメラやモニターの映像・音声を通して「対面と同等の確実性 」を担保して実施します。運行管理者は、顔色・表情・全身の動き・酒気帯びの有無などを、明瞭かつ迅速に判断できる通信環境で実施しなければなりません。
このように、IT点呼は優良事業所の信頼性を前提にするため自由度が高く、遠隔点呼は対面同等の精度を担保するため実施要件が厳しいという違いがあります。
項目③必要な機器
IT点呼・遠隔点呼のいずれも、国土交通省が定める基準に適合したIT機器を使用します。しかし、求められる要件や構成は大きく異なります。
IT点呼には、運行管理者がドライバーの顔色や酒気帯びの有無を確認するためのカメラや、測定結果を自動記録できるアルコール検知器などが必要です。通信速度や画質などの品質について、法令上の細かい数値基準までは設けられていません。
対して遠隔点呼には、映像や音声が途切れない安定した通信環境や、なりすましを防ぐための生体認証(顔認証など)を備えたシステムが必須となります。さらに、全身を確認できるカメラ(200万画素・フルHD画質以上、30fps以上)や、部屋全体を見渡す監視モニター(16インチ以上・フルHD)など、高度な要件を満たす認定機器を揃えなければなりません。
このように、遠隔点呼は必要な機器スペックや前提条件が高いため、導入を進める際は、機器選定や回線の見直しまで含めたコスト・工数をセットで考える必要があります。
項目④実施できる時間・範囲
点呼を実施できる時間・範囲は、運用上の柔軟性に関わるポイントです。
IT点呼は、Gマークの有無や、どこの拠点とつなぐかによってルールが細かく分かれています。基本的には「1営業日のうち連続16時間以内」という制限がありますが、自拠点の車庫と行う場合(同一営業所内の営業所と車庫の間で行う場合)に限り、24時間実施可能です。
それに対して遠隔点呼には、厳格な時間の制限はありません。 要件を満たした機器と環境があれば、24時間365日いつでも実施可能です。制度上、対面点呼と同等扱いとなるため、夜間や早朝を含めたすべての点呼を遠隔地から行えます。
IT点呼と遠隔点呼のどちらを導入すべきか
IT点呼と遠隔点呼の違いはわかっても、「自社にはどちらが適しているのか」と疑問に感じる運行管理者も多いでしょう。ここでは、それぞれの点呼が向いているケースについて解説します。
IT点呼が向いているケース
IT点呼が向いているケースは、主に以下の3つです。
| IT点呼が向いているケース | 詳細 |
|---|
| すでにGマークを取得済み | IT点呼の前提となる安全評価を満たしているため、申請から運用までのハードルが低い。 |
| 既存の設備を活用してコストを抑えたい | 遠隔点呼のような厳格な数値要件までは求められないため、既存の環境を活用しながら導入できる場合があり、追加費用を抑えやすい。 |
| 特定の拠点間だけ効率化したい | 「営業所と、離れた車庫の間の点呼だけを効率化したい」などの課題解決であれば、IT点呼で十分対応できる。 |
遠隔点呼が向いているケース
遠隔点呼が向いているケースは、主に以下の3つです。
| 遠隔点呼が向いているケース | 詳細 |
|---|
| Gマークを取得していない | Gマークがなくても導入できるため、早い段階でデジタル点呼へ移行したい事業所に向いている。 |
| 複数拠点の点呼を一元管理したい | 遠隔地の運行管理者が複数拠点の点呼を担当できるため、各拠点の人員配置を効率化しやすい。 |
| 24時間運行に対応したい | 実施時間の上限がないため、深夜・早朝を含むすべての便に対応しやすく、24時間稼働の体制に適している。 |
自動点呼とIT点呼・遠隔点呼の違い
点呼のデジタル化を検討する際、IT点呼や遠隔点呼に加えて「自動点呼」という選択肢があることも知っておきましょう。
自動点呼とは、運行管理者が画面越しに確認するのではなく、ロボットやシステムによって自動で点呼を行う方式です。IT点呼や遠隔点呼はあくまで「人が」確認を行いますが、自動点呼は「機械が」判定を行うという違いがあります。
さらなる高度な機器が必要となるものの、運行管理者の負担を大幅に減らせる点呼方式として注目されています。自動点呼について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
「自動点呼とは?導入要件・メリット・おすすめ製品まで紹介」
自動点呼・IT点呼を導入するなら「ロボット点呼・IT点呼」
点呼のデジタル化を進めるためには、現場の負担を減らせるシステム選びが欠かせません。そこで、自動点呼・IT点呼に対応できる点呼システム「ロボット点呼・IT点呼」が有力な選択肢となります。主な特長は以下のとおりです。
・IT点呼や遠隔点呼に対応し、営業所や車庫など複数拠点の点呼をクラウド上で管理
・コミュニケーションロボット「Kebbi Air」と連携し、乗務後自動点呼にも対応
・デジタルタコグラフ(ITP-V3)と連携し、点呼記録簿を自動作成
・顔認証・静脈認証などの生体認証により、なりすましを防止
導入を検討される方に向けた無料のオンラインデモも実施しています。自社の運用に合うか確認したい方は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
IT点呼と遠隔点呼は、いずれも点呼業務を効率化する有効な手段です。しかし、導入に必要な要件や機器、実施できる範囲には違いがあります。
それぞれ一長一短であり、自社に合ったものを選ぶことが大切です。IT点呼や遠隔点呼によりデジタル化を図る際には、今回の内容をぜひ参考にしてください。